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松山市で「車いすで街歩き」体験 コミュニケーションでバリア超える

道後温泉前で「火の鳥ポーズで記念撮影」のミッションをクリアした参加者

道後温泉前で「火の鳥ポーズで記念撮影」のミッションをクリアした参加者

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 車いす利用者と健常者が共にオリエンテーリング形式で街歩きを楽しむイベントが9月7日、サイボウズ松山オフィス(松山市二番町3)を出発点に開催された。

「車いすで街歩き」当日の様子

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 イベントには、車いす利用者10人と健常者約20人が参加。5つのチームに分かれて、道後温泉・ロープウェイ街・松山市駅・JR松山駅・堀之内などに繰り出し、「バスや電車に乗る」「ランチを食べる」「指定された場所で写真を撮る」などのミッションをこなした。健常者のチームメンバーも交代で車いすでの街歩きを体験し、それぞれの気付きをミーティングで発表した。

 イベントを企画したのは、自身も車いす利用者である石川水緒さん。4年前に事故で頚椎(けいつい)損傷を負った石川さんは、自身の経験から「車いす利用者と健常者との間には垣根がありすぎるような気がする。実際に触れ合い、体験し、話してみないと分からないことばかりで、すり合わせが必要だと感じた。そのためにはいろいろな立場の人と交流することから始めなければ」との思いで今回のイベントを実現した。

 開催準備に当たっては石川さん自ら千葉県まで出向き、街歩きイベントに何度も参加経験がある車いす利用者に、イベントの運営などについて学んだ。「Wheelog」(東京都千代田区、「車いすでも諦めない世界」を目指してアプリ開発やイベント運営など、車いすユーザーの生活の質の向上のための活動を行う団体)の街歩きイベント主催者に話を聞くため、徳島まで足を運んだこともある。

 石川さんは「アクティブに外出している私を見て、車いすのご家族を持つ方から『どうしたらそんなに外へ出られるのか』と尋ねられたこともある。松山をはじめ、四国では、情報共有が非常に遅れていると感じる。情報は、人と人とのつながりを作って回していくのが一番。このイベントを通してさまざまな立場の人の間に新たなつながりが生まれたり、外出をためらっている車いす利用者が外に感心を持てるようになったり、新しいワクワクする展開が生まれるきっかけになればうれしい」と話す。

 車いすにとっては歩道と道路の境界などで多く見られる5~6センチの段差も危険で、無理に乗り越えようとすると、転倒することもある。車いす利用者の中には、障がいの影響で、手助けを求めたくても大きな声が出せない人や、視点が低いため周囲の人からなかなか気付いてもらえないこともあるという。

 「車いすで街歩き」に参加したメンバーからは「市内電車のホームが狭く、車いすを回転できなかった」「トイレに設置されたボタンの位置が高すぎて手が届かなかった。設備が利用者目線で作られていない」など、設備面での課題も多く挙げられたが、石川さんはポジティブに続ける。

 「設備面の整備には、どうしてもお金と時間がかかる。車いすでの外出には大変なことも多いが、楽しいことも多い。周囲の人のちょっとした手助けさえあれば『マンパワーで乗り越えられる』というのが私の実感。松山の人も、声をかければみなさん快く手助けをしてくれ、そういった経験を通して自分は、『人って優しい』と心から感じるようになった。外出が難しいと困っている車いす利用者にはその点に気付いてほしいし、手伝ってもらえれば車いす利用者はとてもうれしいということを、少しでも多くの人に知ってほしい」と、視点を変えて考えることの大切さを訴えた。

 今後も同様のイベントを開催する予定については「No」と石川さん。

 「イベントそのものを継続するのではなく、今回のイベントで出会った人が、そのつながりをきっかけに『触れ合う、分かり合う、何をすれば笑顔になれるか考える』ためのアクションを起こしてくれることを期待している」と言う。

 石川さんは「車いすの人も、そうでない人も、触れ合えば分かることが本当にたくさんあった。行政への申請方法や会場の準備など、イベントの運営に関するノウハウは伝えられるので、興味を持った方はぜひ、自分なりのアクションを起こしてみてほしい」と今後に期待を寄せた。

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