愛媛県産シルクの魅力を発信し新しい産業の創出を目指す「愛媛シルクショールーム」(松山市大街道3、TEL 089-909-7793)が6月1日、グランドオープンした。
約25坪の店内は、愛媛県産のブランド材「媛ひのき」を天井から壁まで弧を描くようにあしらい、稲わらだけで作った昔の蚕室をイメージして「繭の中に包まれるような空間」を演出した。店内では、愛媛産シルク由来の保湿成分を配合した「SILMORE(シルモア)」ブランドのヘアケア・ボディーケア製品や、扇子や傘、ピンバッジなどの小物のほか、シルクパウダーを使った菓子類などの食品も販売する。
「あまり知られていないが、愛媛は全国10位、西日本では1位の『シルク県』」と話すのは、同店を運営するユナイテッドシルク(大街道3)社長の河合崇さん。
「愛媛では西日本で唯一の製糸工場と、養蚕に欠かせない蚕種(さんしゅ、蚕の卵)を生産する業者が稼働している。最盛期の1920年代に1900戸近く存在した養蚕農家は5戸まで減少してしまったが、生糸だけでなく養蚕の副産物も機能性素材としてフルに活用することで、養蚕の伝統を守り、継承と革新につなげたい」と期待を込める。
河合さんは大阪府の出身。20歳のときに旅行で松山を訪れたことが、愛媛シルクに携わるきっかけになった。「松山城から見渡した街の景色や雰囲気、人の優しさがとても印象的で、いつかここに移住して地域の役に立ちたいと思った」と話す。
大手商社で繊維関連の事業に携わっていた経験を生かし、2016(平成28)年に「ユナイテッドシルク」を設立。同年、伊勢神宮や皇室の御料糸としても納められる愛媛産生糸が「伊予生糸(いよいと)」として農林水産省のGIマーク(地理的表示保護制度)認定されたことを受け、生糸生産の副産物を活用する「シルモア」ブランドが、伊予銀行のビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞。2018(平成30)年には「ふるさと名品・オブ・ザ・イヤー2017」政策奨励大賞(地方創生担当大臣賞)を受賞した。
2018年の西日本豪雨災害では、一緒に事業を進めてきた大洲市や西予市の養蚕農家が甚大な被害を受けた。「ピストン輸送で30回以上、救援物資を運んだ」と河合さん。「養蚕農家にも連絡が付かず、やっとの思いで駆け付けたら作業場も機械も泥水をかぶって見るも無残な状況だった。高齢の農家さんからは『辞めるわ』という言葉が出たが、高圧洗浄機をたくさん借りてきてみんなで必死に泥を洗い流した結果、きれいになった作業場を見て『あと10年続けるか』と言ってもらえた」と笑顔を見せる。
豪雨災害から立ち上がった瀧本養蚕(大洲市多田)では2020年、地元を離れていた孫がUターンし、5代目を継ぐことが決まった。今年10月には農研機構などが主催する「全国シルクサミット」が初めて松山で開催される。
「愛媛には、地元の人が気付いていない魅力的な地域資源がたくさんある」と河合さん。「シルクという認知度の低いものでもこれだけのことができたのだからと、愛媛県全体で『もっと地域資源の魅力を掘り起こして売り出していこう』という気運にもつながれば」と期待を込める。
営業時間10時~18時。新型コロナ感染拡大防止のため、土曜・日曜は当面閉店する。