「労研饅頭(ろうけんまんとう)」の製造元として親しまれる松山の「たけうち」(松山市勝山町2、TEL 089-921-8457)が10月6日で90周年の節目を迎えた。
素朴な味で、地元松山では親子3代、4代にわたって親しまれている「たけうちの労研饅頭」は、1929(昭和4)年、倉敷労働科学研究所が、当時の満州で主食だった「饅頭(まんとう)」を日本人の嗜好(しこう)に合わせてアレンジし開発したもの。競合を防ぐため1都市につき1軒に製造許可を出し、全国各地で製造販売されていた。
松山での販売開始は1931(昭和6)年。不況で苦労している夜学生に学資を供給することを目指して、当時、松山夜学校で数学教師を務めていた竹内成一氏が責任者となって校舎の一角に工場を作り、「労研饅頭」の製造販売を始めた。1937(昭和12年)には個人事業として受け継ぎ、「たけうちの労研饅頭」として長く地元で親しまれている。
1936(昭和11)年には全国37カ所で販売されていた「労研饅頭」だが、「たけうち」と共に最後の2軒として残っていた「丹生製パン」(岡山県備前市)が2020年4月に惜しまれつつ閉店。現在は同店が戦前から続く独自の酵母菌と共に「労研饅頭」の味を伝える全国唯一の店となっている。商品開発にあたっては、のちに「六時屋タルト」の社長となる村瀬宝一さんが倉敷に赴いて製法を学んだほか、中国山東省の出身で料理人の林樹宝さんが来日し、製造技術を指導したという。
3代目社長の竹内信司さんは大学卒業後、東京で食品会社に就職したが1992(平成4)年にUターン。2代目社長、眞さんの下で経験を積み、2003(平成15)年9月、社長に就任した。竹内さんは「労研饅頭に囲まれてこの店で生まれ育ったが、松山に戻り店頭に立つようになって初めて、何十年も前からこの味を愛して通ってくれるお客さんの存在や、地域に根ざした歴史ある店であることに気付かされた」と話す。
現在も自ら、毎日製造に携わっている竹内さんは「昔ながらの味を大切にしつつ、いろいろな新しい工夫をしている」と話す。「労研饅頭の酵母菌には独特の風味があるので、新しいメニューの開発は試行錯誤の連続」とも。
創業当初「黒大豆」のみだったメニューは、2代目の時代で10種類に。3代目が「チーズ」などの新メニューを加え、現在は14種類が店頭に並ぶ。メニューは元祖の黒大豆に加え、うずら豆、ココア、バター、レーズン、よもぎ、チーズのほか、粒餡(あん)、こし餡、白餡、カボチャ餡、イモ餡(全て129円)など。「お客様それぞれにこだわりや好みがあり、どの商品にも『これでなくては』と言ってくれるファンがいる」と竹内さん。
「無添加なので、小さい子どものおやつや赤ちゃんの離乳食にと購入してくれる方も多い。地元の学校の購買部で長く販売していたので、店頭で学生時代の懐かしい思い出話を聞かせてもらうことも」とも。10代の頃からのファンという松山市内の70代女性は「一番好きだったのは、労研饅頭独特のコシのある生地で作った餡入りの揚げパン。学生に大人気で早く行かないと売り切れてしまうので、友達とじゃんけんで当番を決め、チャイムが鳴る前に教室を抜け出して購買部へ走っていたのを思い出す」と笑顔を見せる。
「最近は地元の人だけでなく、観光客が買いに来てくれることも多かったが、このコロナ禍で売上にも影響が出ている」と竹内さん。より多くの人に「労研饅頭」の素朴なおいしさを知ってほしいと販路拡大にも注力しており、松山空港売店のほか、運営会社からのオファーを受けて松山自動車道の石鎚サービスエリア(毎月1回、土日限定)での販売も始めた。作りたてを急速冷凍して、自社ECサイトで通信販売も行っている。
「添加物の入っていない自然の味なので、本当の『おいしさの旬』は作りたての当日午前中いっぱい」と竹内さん。「時間の経過とともにどんどん固くなってしまうので、すぐに食べられない場合は冷蔵庫に入れるか、1個ずつラップで包んで冷凍保存してほしい。蒸し器で蒸し直して食べてもらうのが一番だが『炊飯器で炊きたてのご飯の上にのせておくとふっくらしたおいしさになる』というお客さまのアイデアも。電子レンジを使うときには、レンジ用の蒸し器などを試してみてほしい」と話す。
14日からは90周年記念として、500円以上の購入客に電子レンジ専用の蒸し器を進呈している。
営業時間は、勝山町本店=8時30分~17時30分、大街道支店(大街道2、TEL 089-921-6997)=9時30分~19時(19時以降は売り切れ次第閉店)。水曜定休。