愛媛県在住の作家、田井ノエルさんが道後温泉を舞台に執筆した小説の第3巻が7月11日に発売され、15日に松山市内の紀伊國屋書店(松山市湊町5)でサイン会が開かれた。
今回発売された小説「今宵(こよい)、神様のお宿は月が綺麗(きれい)ですね」は、道後温泉を舞台にした小説「道後温泉湯築(ゆづき)屋シリーズ」の第3巻。
会場に訪れた松山市内在住の高校生、大下凜々花さんは、第2巻発売時に開催されたサイン会でも最初に並んだというファン。「普段生活している松山市内の建物や場所、路面電車など日常の風景や、道後温泉街の描写には、思わず『分かる』と叫んでしまうようなリアルな地元感覚が詰め込まれている。そこに『神様が疲れを癒やしに訪れるお宿』というファンタジーの非現実感が溶け込んでいる感覚が、新しくて面白い。威厳ある神様のはずなのに妙に人間くさい主人公の夫(イケメン神様)のキャラクターも魅力的で、ちょっとじれったい恋愛関係の行く先も気になる大好きな作品」と話す。
同じくサイン会に来場した女性は「作品世界の面白さと、よどみなく心地よい文章の美しさにすっかり魅了されてしまった。食べ物の描写が非常に魅力的で、読むといつもおなかがすいてしまうほど。全体に流れる『分かり会えない他者と、それでも共に日々を楽しむ』という深いテーマには毎回考えさせられることが多く、主人公の前向きな明るさにも元気をもらっている。有名な観光地だけでなく、隠れた名所や実在するお店も随所にちりばめられているので、松山を観光で訪れる人はもちろん、幅広い世代の人に読んでみてほしい作品。これからも松山の魅力を小説で発信してほしい」と期待を語った。
作者の田井さんは、10年ほど前から趣味で小説を書くようになり、新人賞などに応募していたところ、道後温泉を舞台にした作品が2018(平成30)年「第6回ネット小説大賞」を受賞。同年8月に「道後温泉湯築屋シリーズ」の第1巻「暖簾(のれん)のむこうは神様のお宿でした」でデビューした。
サイン会を終えた田井さんは「コツコツ続けているといいことがある、と思う。サイン会ではたくさんの読者に出会うことができ、長い時間待ってくださった人からも『楽しかった』と言ってもらえたことが本当にうれしかった。これからも出会いを大切にしながら執筆活動を続けていきたい」と話した。
今後も「道後温泉湯築屋シリーズ」の執筆を続けるほか、松山のロープウエー商店街(松山市大街道3)を舞台にした書き下しの新作「松山あやかし桜 坂の上のレストラン『東雲(しののめ)』(仮)」の発表を今年10月に予定している。