元駐リビア大使やイスラーム研究者、日本で暮らすシリア難民、エジプト出身のアラビア語通訳者らが登壇する3つのイベントが、10月25日に松山大学(松山市文京町4)で開催される。
このうち、松山大学経済学部学術講演会「『中東』という世界」(講師=元駐リビア日本国特命全権大使、塩尻宏氏)と、同大学教育研究助成による講演会「イスラーム文明と近代科学」(講師=筑波大学名誉教授・元副学長、塩尻和子氏)の2つの講演会は、松山大学経済学部准教授の岩崎真紀さんが企画して実現した。
岩崎さんが中東に興味を持ったきっかけは、大学院進学を控えた時期に参加した内閣府の国際交流事業「世界青年の船」での出会いだった。旅を通して多くの国の人と触れ合ったが、その中でも特に「中東の人々の温かくユーモアがあり、世話好きな人柄に魅了されて中東という地域に深い興味を抱いた」という。
この旅をきっかけに、大学院では本来アメリカ研究を専攻するはずだったところ、進路を大きく変更。中東に関する宗教の分野で博士課程を修了し、筑波大学、九州大学などでの勤務を経て、今年4月から松山大学で中東、イスラーム、キリスト教、移民、多文化共生等に関する講義を担当している。
岩崎さんは「マスメディアの情報から感じる中東・イスラーム世界のイメージは『紛争地帯』や『テロリスト』『難民』などの怖い印象だという人が多かもしれないが、実際はさまざまな異なる面も持っている」と話す。「松山大学で開講している『宗教と世界』を題材とした中東の文化や宗教に関する講義は、多くの学生が興味を持って受講してくれており、その背景には『本当の中東や宗教の姿を知りたい』という気持ちがあるからではないかと感じている」とも。
12時30分~14時に行われる講演会「『中東』という世界」では、塩尻宏氏が駐リビア大使などとして激動の「中東」との関わりの中で過ごしてきた39年間の経験を踏まえ、外交の内側から中東という世界について語る。
14時15分からは、東京大学やハーヴァード大学で研究活動を行い、イスラーム思想や比較宗教学、中東地域論、宗教間対話などを専門とする塩尻和子氏が登壇。長く中東で暮らした経験も踏まえ「ギリシア文明を受け継いで育み近代科学の基盤を築いた地域」としての中東イスラームに焦点を当てて「イスラーム文明と近代科学」について講演する。
18時~20時には「世界を拓(ひら)く実行委員会」が主催する、「世界はひとつ・みんなのだんらん2」も開催。シリア難民当事者のジュディ・ヨーセフさん、難民認定裁判で代理人を務めた弁護士の難波満さんに加え、エジプト出身で、アラビア語通訳のほか放送大学「初歩アラビア語講座」などで講師を務めるリーム・アハマドさんらを招き、講演会と懇親会を開催。日本でたくましく生きているシリア難民の当事者と実際に向き合って話し合うことで、日本の未来や新しい気付きのきっかけとなることを目指す。
「松山大学学術講演会」は、松山大学が学内から公募を募り、講演者の招聘費用などを助成して開催する講演会。学生や教職員の異文化への視野を広げるばかりではなく、地元松山市や近郊地域への社会貢献の観点も重視し、受講料無料で市民にも広く参加を呼び掛けている。
岩崎さんは「一番良いのは、旅などで現地を訪れて実際に交流し、中東の自然や文化的魅力、人々の温かさになどに触れてもらうこと。しかし残念ながら、2011年のいわゆる『アラブの春』以降、中東・北アフリカの多くの国々は、旅行などで訪れるのが難しい状態が続いている。今回の講演会とイベントは、シリアなど中東出身の人や、中東と長く深く内側から関わり、研究や交流を続けてきた日本人の話を聞くことができる貴重な機会。日頃目にするマスメディアからの情報だけでは決して知ることのできない、中東地域の魅力や人の温かさに触れることで、中東についてバランスよく知識を深めてほしい」と来場を呼び掛ける。
松山大学経済学部学術講演会の会場は松山大学文京キャンパス821番教室。事前申し込み不要、受講無料。
「世界はひとつみんなのだんらん2」の会場は、松山大学樋又キャンパスH2A教室。参加無料。当日参加も可能だが、参加人数把握のため事前申し込みを呼び掛けている。