2月29日に閉店した松山のバー「ワニサイ」(松山市道後湯之町1)を通じてつながった仲間が、元店主の国本享裕さんを中心に9月19日・20日、野外音楽フェス「鈍光(どんびかり)」を開催する。
2度目となる今年は「妖怪一揆~病は気から、妖怪は心から~」をキャッチフレーズに、地元アーティストのライブやDJ、マリオネットショーなどを展開。期間中、会場内に「鈍自然食堂」やマルシェ、バーなども登場する。
入場者に配布するリストバンドは、古着のTシャツを裂いて作った布ひもにガラス工房「あかねいろ社」(高浜1)が作るガラスドロップ付きのもの。一点ずつ手作業で作り上げた「鈍光ウコン染め手拭い」(1,000円)など、ユニークなアート雑貨も会場を彩る。
今回の会場は、平安時代に弘法大師が開いたと伝えられる日本最古の古代のサウナ「桜井石風呂」に隣接する「石風呂薬師堂」(今治市桜井)。海岸近くにある15坪ほどの自然の洞窟の中でシダの葉を燃やし、塩水に浸したむしろをかぶせて蒸気を発生させ、洞窟にこもった熱と蒸気で体を温める石風呂は毎年夏季限定で営業していたが、2008(平成20)年以降、営業を休止している。
イベントを主催する国本さんは「『鈍光:DONViKARI』は昨年も、長年放置されていた重信川上流の観光施設、酒樽村(東温市山之内)で開催した。今年の舞台となる『桜井石風呂』も、平安時代に遡る歴史を持ちながら、10年以上にわたって運営を休止し廃虚のようになってしまった場所。石風呂再建のために尽力している知人もおり、今回のイベントが長く放置されていた施設の最初のともしびになれれば」と期待を寄せる。
コロナウイルス流行を受け、ライブの一部はリモートで開催。「世界リモートライブ」と題して、山梨県や種子島のほか、イタリア(フィレンツェ)、ドイツ(ベルリン)、ベルギー(ブリュッセル)などをオンラインでつなぐ。
今回のイベントについて、国本さんは「ある意味サーカス的現場であり、生きた魂のうごめく場」と表現する。「昨年は満月の夜の開催だったが、今年は新月直後のこれから光を増していく繊月の夜。何かを蓄えて入れ替わり生まれ変わる象徴の月に光を届け、見届けてもらうような祭り」とも。
国本さんは「コロナ禍の中、祭りとしてどんな表現ができるのかを考えた。パンデミックの語源はギリシャ語の『パンデミア』で、パンは『全て』、デミアは『人々』を意味する。食・音・祈り・火・アート・海・祭・を『パンデミア』で作りながら、参加者みんなが人の理(ことわり)に縛られない妖怪になって日常の枠を抜け出して楽しみ、終われば消えて思い出に変わる。そんな幻のような時間と場所をつくりたい」と話す。
8年前のオープン直後から「ワニサイ」の常連客で、今回のイベント運営を支えるリョウコさんは「男の子のお祭りだと思って黙って見ていたが、運営者全員があまりにも妖怪然としていて、実務的なことが何も進まないので」と見かねてサポート役を引き受けた。「普段の常識を一歩抜け出せば、世界は多くのレイヤーを重ねたように多層的で、思っていたよりずっとカラフル。コロナ禍の影響もあり、みんな何かしらのストレスを抱えている今、常識に縛られない人たちに紛れて過ごす祭りのひとときは、心にゆとりをもたらしてくれるかも」と笑顔を見せる。
開催時間は両日とも11時~21時。入場料は、1日=1,500円、2日通し=2,000円。キャンプ設営、駐車場利用は共に無料。雨天決行。