道後のにぎわい創出と、日本の伝統芸能であるお座敷文化の伝承を目指して昨年11月にオープンした「華ひめ楼」(松山市道後湯之町)がコロナ対応の休業を終え、2月8日、予約制で営業を再開した。
昨年11月、道後に誕生した「一見さん歓迎」のお茶屋「華ひめ楼」
「道後温泉本館が造られた明治の時代から、道後では旅館の宴席に『芸妓(げいこ)さん』を呼んでお座敷遊びでお客をもてなす風習があった」と話すのは、華ひめ楼と道後湯之町検番あけぼの席で女将(おかみ)を務める田中美帆さん。
最盛期には1000人を超える芸妓が活躍していた道後だが、お座敷文化の継承を担っていた料亭が20年ほど前に松山から姿を消してしまったこと、また、2017年(平成29)年ごろに始まった老舗旅館の耐震改修や建て替え工事をきっかけに、ホテルや旅館の宴会場が激減したことなどの影響を受けて、コロナ禍以前から「お座敷文化」を楽しめる場が減り続けていた。
「道後の旅館やホテルの関係者からも『このままお座敷文化を絶やしてしまう訳にはいかない』『日本の本物の伝統芸能を楽しんでもらえる、芸妓が活躍できる場を作りたい』と力添えを頂き、道後温泉にほど近い古民家を改装して華ひめ楼が誕生することになった」と田中さん。
昨年11月には、コロナ後のインバウンド回復に備え、ホームページの多言語化や海外向け動画プロモーションの費用をクラウドファンディングで募集。目標を上回る114万円余りの支援を集めた。支援者からは「道後に粋な店がオープンしてワクワクしている」「道後の魅力を一段とアップさせる取り組みに期待している」など、多くの応援コメントが寄せられた。
田中さんは「クラウドファンディングという形で、見ず知らずの人にお金のお願いをすることには抵抗があったが、社会のあり方が変化する中、こうした取り組みも必要なのかもしれないと思い切って挑戦を決めた。結果として多くの方にお座敷文化について知ってもらうきっかけになり、励ましの言葉にも大きな力をもらった」と感謝を口にする。
検番、置屋、お茶屋など、お座敷文化には分かりづらい言葉も多い。田中さんは「現代風に言えば『検番』は取り次ぎ所で、『置屋』はプロダクション。『お茶屋』は私たちが活躍する会場」と笑顔を見せる。
「華ひめ楼では、これまで分かれていた3つの機能を1つにすることで、経営の合理化も目指している。芸妓が足りないときには、よそから助けてもらう『かしかり』の文化も健在。小さくても、松山で芸を磨いて頑張っているみんなが活躍する場ができた、という意味で、華ひめ楼の存在意義は大きい」とも。「一番の目標は、お座敷文化の継承と若い力の育成」と、芸妓見習いである『舞妓さん』の募集も行う。
「お座敷遊びといえば、一昔前は限られた人だけの特別なものだったが、誰でも楽しめるエンターテインメントにしていくことも目標の一つ。特別な記念日やお祝い事に華を添えるのは芸妓の得意とするところ。機会があれば気軽に声を掛けてほしい」と田中さん。「舞を披露できる2畳ほどのスペースさえあれば、『お座敷』はどこでも楽しんでもらえる。公民館や神社、企業が主催するイベントなどのほか、建前や米寿のお祝いなどで個人のお宅に呼んでもらったことも」と笑顔を見せる。
「今後はもっと身近な存在になると同時に、特別感やぜいたくさを感じてもらえる存在でもあり続けたいと思っている。より一層技術や立ち居振る舞いを磨き、プロ意識を心に秘めて頑張りたい。若い力やアイデアを取り入れながら、古き良きものを新しい力で守り育てていきたい」と期待を込める。
花ひめ楼の「日替わり昼膳」(3,000円)は11時~13時30分で、抹茶と和菓子付き。夜のコースは18時~24時の予約制で、料理と席料で8,000円~など。貸し切りのお座敷は、芸妓と唄や三味線を担当する地方(じかた)2人の花代と部屋代で2時間5万円から。時間や予算、場所などの相談にも応じるという。